元ヤン介護士の知佳のブログ

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官能小説『ただいま』 第1話 恋歌様作

恋歌様作


官能小説『ただいま』

Shyrock様のご許可を頂き掲載させて頂いております。


 東京 板橋――
 その中心を走る国道沿いの程よい場所に八階建てのとあるマンションがある。玲子
という女性がオーナーのそのマンションは、作りは瀟洒で、セキュリティ関係も駐車
場も万全、しかもオーナーの出す条件さえ満たせば更に割引と言う実にお勧めな物件
であった。実際、お得さにおいては区内で五指に入り、近在の不動産屋の間では“本
音で言ってのベスト1”に入っているほどだ。
 ただ、これを読んでいるあなたがここに入居できるかどうかは別問題である。実
際、そこの住人達は――ちょっと世間の常識とは変っている人達ばかりなのだか
ら……


―― “変わっている人達しか住めない”のではなく、住んでしまうと変わった人に
なるという説のあることも、一応、付記しておくことにする。



 六○一号室――


「ただいま」
 慎一はいつもの小さな声で自分の家へ帰ってきた。いかにも力ないその様子は、や
たら可愛い顔立ちと背は年齢並にしても細くて白すぎる体つきには、嫌になるほど
合ってはいる。これが“女の子”だったら将来が実に楽しみな逸材であったろう。
 ――しかし、その名の通り、慎一君は男なのであって……
「あーーあ。また、やられたのか」
 ちょっと低めの声と同時に、奥から大柄な影が現れた。
。慎一はその声にびくっ!と
しながらも、何故かすりよりたいかのような泣き顔になる。
「まあ、いい。早くあがれ。今日からはさすがに何とかしてやろう」
 実に男らしい台詞が、その人影――ライオンのたてがみのような豊かな髪に、きっ
ちりとタンニング(日焼け)した肌、そして、筋肉のみで作られたほぼ完璧な造形美
の身体をTシャツとスパッツだけで包んだ女性がさらりと口にした。信じられないか
もしれないが、この女性は慎一の――
「……ママ……」
「あーーもう!泣くんじゃないよ。またクラスの女の子に虐められたんだろ。言わな
くたって判るよ。その顔の泪の跡を見れば!」
 二人並んだら絶対、実の母子とは思われないであろう。しかし、この二人――どう
みてもはかなげな美少女の男装にしか見えない息子“慎一”と、フィットネスクラブ
でエアロビとボディビルのインストラクターをやっている逞しい母“虎美”は本当の
母子なのであった。


 母の寝室に連れられながらも息子は、声を押さえながらしゃくり始めた。いつもの
事だが母が自分の不幸を慰めてくれると言う信頼の故である――同情されると泪がで
てくるものなのだ――男の子って。
 まあ、いつもなら、元気付けてくれるのは、リビングのソファであり、今日に限っ
て、何故、母の大きなベットに腰掛けさせられたかについては、息子は今だその違い
にすら気がついてはいなかったのだが。
「いいか。ママはいじめに対して肯定的なことは言わないが、泣いたって誰も助けて
はくれないのは確かな事実だ」
 母はそう言うが、この慎一のいじめに関してはそれなりに複雑な事情があった。
 まず、同性からのものではないことだ。これは同じマンションのお兄ちゃん達(空
手の功司君とか柔道の巧君とか)が近所のよしみで長年周辺の小学校、中学校に睨み
を効かせているおかげである。誰であれ男が慎一をいじめようものなら、きつーーい
折檻が待ち構えている事は何度も“実際に”確認されていた。だから男で慎一を虐め
るものなどこの校区には存在しない――
 しかし、お兄ちゃん達も男であるから、“男社会”には顔を利かせられてもそれ以
外はちょっと――ということはある。ぶっちゃけて言えば、慎一の周辺の“女の子”
達には支配力が及ばないのであった。
 要するに、“外見美少女そのもの”の慎一を現在、虐めているのは学校の『女の
コ』なのである――
「不細工な女ガキ共がお前を虐める理由はひとえにお前の外見にある」
 同じ美形でも母とは違い気弱げかつ儚げな――ちょうど守ってあげたくなるようで
あって――それがいけなかった。つまり、どう努力したってその域には届かない世間
一般の女ブス達の運命的な反感を一身に背負っていたのである――それが毎日の慎一
君の泣きべそとなっていたのであった。
「と言って、その外見を変えるわけにもいかない。せっかく、ママ似なんだし…
(?)
 だから、ママが慎一に女向けの攻撃法を伝授してやる。習得には厳しい修行が必要
だが、しっかりマスターするように」
「はあ…」
「まずは特訓の準備だ!」


 ――どこかの師範みたいな口調の実母に命じられるままに準備をした慎一はおずお
ずと口を開いた。
「ねえ、ママ」
「ん?」
「どうしてママはレオタードに着替えているの?」
 息子の教育のためのわざわざ着替えた母は堂々と答えた。
「ママの仕事着だからね。これが一番気合が入るの」
 ベットに腰掛けた虎美は豹柄のレオタードを装ったみごとに鍛えぬかれた身体をし
ならせる。贅肉や無駄や油断はかけらもない、しなやかな筋肉が流れるように、そし
て美しくその女体を形作っていた。息子の慎一の脳裏に、『美しい“牝獣”』――と
いう単語が思わず浮かぶ。
「じゃ、じゃあ……どうして、僕は裸なの?」
 胸の無い少女のようなか細い――白い裸身のままでベットの脇に立たされた慎一
は、恥かしさに消え入るような声で――しかし、真剣に問うた。いくら実の母子とは
言え、この年になっての全裸は恥ずかしい。いったいどういう理由で、母の寝室で息
子が裸にならなければならないのか――
「もちろん、今から行う特訓のためだ」
 母は揺るぎ無い自信を込めてきっぱりと言いきった。
「そ、そうなの?」
「そう!」
 母にそこまで言われてはそれ以上の反抗は絶対に出来ない息子である。
「いいか。慎一」
 母はそんなか弱い息子の薄い両肩に力強い両手をかけた。
「相手はブスでもカスでも、一応、“女の子”だ。だから、普通の暴力はできない。
お前が男の子である以上、どんな理由があろうとこっちが悪者になるからな」
「うん…」
「しかし、世の中には“暴力”にはならない“攻撃”というものもあるんだ。これな
らば相手は――特に女には有効だ。反撃するどころか絶対にお前の言う事を聞く――
いや聞かざるをえないようになる」
「……うん……」
「幸い、お前はママに似て美少年だ。今から教える技さえ習得すれば女相手には無敵
となろう」
ほんとかな――と言う顔を慎一はしたが母は意にも介さなかった。
「ではいくぞ」
「え?」
「まずは基礎からだ」
「え?え?」
「基本その一!口技!」
 ぐん!と風を切って母の鋭い、しかし、かなり美人な小麦色の顔が息子の視界に急
接近した――と思う間もなく、母の両手が息子の頭を後ろからがっしりとつかむ。そ
して、驚くその唇へふわりと生暖かい――そして柔らかくていい匂いのするものが触
れた。





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